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ゴー!ゴー!アタラント号!! 映画☆おにいさんのBlog

報告:登山の映画史

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 本日は、映画☆おにいさんのシネマ・カフェ第三回「登山の映画史」にお集まりいただきありがとうございます。毎回、映画を観て楽しく感想を話し合うことを目指してやっています。今回のテーマは「登山の映画史」としました。これは「三島」という場所が富士山の麓にあることから、山と関係が深い場所だと思い設定しました。ただ、準備をしているうち「登山」というより「山」という場所がどのように舞台として機能しているかを観ていった方が面白いのかなと思ったので、もう少し意味を拡張して、舞台としての「山」について皆さんと考えたいと思います。ですので、告知とは少し異なるかもしれませんが、「山」を舞台として撮られた映画の抜粋を観てみましょう。

 

 映画は、1895年にフランスのリュミエール兄弟がグラン・カフェというところで上映会を開いたのが、始まりとされています。今日のような雰囲気と近かったかもしれませんね。

 リュミエール兄弟は世界中のいろんなところへ技師を派遣し撮影しています。当然「山」へも行っています。映画が始まったばかりでどんなものだったのか。「山」がどのように撮られているか観てみましょう。

 

【上映】『シャモニー:難路』『雪上の滑走』

 

 『シャモニー:難路』と『雪上の滑走』を二本続けて観ましたが、映画がこれほど短いことにまず驚きますね。当時はこの長さでも「映画」として観てたんですね。山は迫り立っているから斜面で歩きにくいし、落ちたら危険です。人の動きを制限してしまいます。一方、『雪上の滑走』のように斜面をすべり落ちると普段出せない力、スピードが出せるんですね。

 次は、エリッヒ・フォン・シュトロハイム監督の『アルプス颪』を観てみましょう。クライマックスの場面。主人公と、主人公の奥さんを誘惑している女たらしの将校が、山の頂上に着いたところから観てみましょう。

 

【上映】『アルプス颪』

 

 この映画では、山は景色がいい、開けた魅力的な危険な場所として人々が目指すべきシンボルとしてありますね。同時に、高く、落ちたら危険な舞台として、逃げられない、密室の空間でもあります。そこに、鳥の影が写ってシュトロハイムを襲おうとしている。怖いですね。そのように普段は見かけない野生の生き物が生息して現れる可能性がある舞台でもあるんですね。さらに付け加えるのならば、奥さんが霊感を感じる場所といえるのかもしれません。奥さんが夫に危険な目に遭っている気がすると言った時に、山なら説得力が増すというのはあると思います。とはいえ、撮影するのも危険ですね。リスキー。簡単に繰り返し撮影が出来ない緊張感も画面から感じますね。

 三本目はチャップリンを観てみましょうか?この中でチャップリンを観た方はいますか?(会場、一人手を上げる)誰でも知っているけれど、意外と観られてないんですが、映画の基本ですよね。今回は『チャップリンの黄金狂時代』を観てみます。

 ジムは金鉱を見つけたのですが、記憶喪失になり金鉱の場所を「小屋の近く」としか思い出せなかったが、小屋に一緒にいたチャップリン演じる主人公と再会して、案内を頼み、小屋へと向かうんですね。小屋に到着し一晩過ごしたところから観てみましょう。

 

【上映】チャップリンの黄金狂時代』

 

 小屋が風で崖の寸前まで飛ばされちゃって、小屋の中でチャップリンたちが動くと小屋が傾いちゃう。可笑しいですね。志村けんのバカ殿でもこのネタが引用されてました。画面を観てすぐ分かるギャグですね。生活する場、平地とは切り離された、金鉱がある「山」でしたね。

 4・5本目は、一人の映画監督の作品を続けて観てみましょう。監督はラオール・ウォルシュです。約50年のキャリアにおいて100本以上撮っているとても面白い監督です。クライマックスの舞台が「山」のストーリーを第二次世界大戦を挟んで2本映画を撮っています。

 『ハイ・シエラ』はハンフリー・ボガート演じるロイはホテルを急襲して現金を強奪したんですが、仲間に裏切られ一万ドルの懸賞金が懸けられてしまい、ロイに好意を寄せるマリーと一緒に逃げます。なるべく警察の目を欺くためマリーと別行動をとるようにしたのですが、だんだんと追いつめられてしまうんですね。警察に見つかり車で逃げていくところから観てみましょう。

 

【上映】ハイ・シエラ

 

ハンフリー・ボガートは焦っているので車がぶつけてしまうんですね。風で木が揺れてて怖いですね。山から声は聞こえるけれど、姿は見えない、身を隠す場所として描かれていますね。そこに犬がワンワン吠えて出てきますね。それによってマリーが来ていることに気づいた主人公が慌てて姿を現しちゃって、撃たれちゃうんですね。愛していたからでしょうか。最後に、マリーが「逃げることって何?」「自由さ」と警官とやり取りした後、カメラが山を映しますね。ロイの魂を撮っているのでしょうか。

 次の『死の谷』は、『ハイ・シエラ』と話の大筋は一緒なのですが、西部劇に翻案しています。列車の強盗をしたあと、現金を持って2人は逃げるのだけれど、保安官の捜査の手が迫ります。

 

【上映】死の谷

 

 一番違うのは、2人とも死んでしまうとこでしょうか。アウトローでも間違ったことはしないのが泣けますね。「山」でいうと、位置関係がそのまま上下関係を表していますね。位置が高い方が力関係も強いですね。山に限らず、コロラドが保安官と交渉するときスライディングしますが、あそこも逸る気持ちと下手に出る気持ちを感じますね。

 6本目は少し寄り道をしてですね、山を舞台の映画はこれまで観てきたようにいろいろあるのですが、では画家で「山」を描いた人といえば、セザンヌがいますね。ストローブ=ユイレがガスケ『セザンヌ』を原作に映画を撮っています。ストローブ=ユイレとはストローブとユイレの夫婦で映画を撮っていてですね、自分でブレヒトの後継者だとか言っちゃってるんですが、映画の題材が政治的というよりは、映画表現が政治的である映画作家です。あとは、それまで映像言語が撮影所の中にしかなかったのを、撮影所の外へ、パブリックなものにした映画作家であると言えると思います。

 

【上映】セザンヌ

 

 今観たようなシーンが延々続くのですが、不思議と飽きないで緊張感のある映画です。

 7本目はジャック・ロジェ監督の作品です。海外では有名ですが、日本ではあまり紹介されていない、マイナーな映画作家です。佳作な作家で、この作品は長編第一作なのですが、これまでに長編映画は5本しか撮っていません。海が舞台であることが多い作家ではあるのですが、山のシーンもあり、それが非常に美しいので、その場面を観てみましょう。

 アルジェリア戦争中でして、テレビ局で働くミシェルは徴兵のため、アルジェリアにいかなくてはならないんですね。そんな時に、リリアーヌとジュリエットと知り合う。コルシカ島でバカンスを共にするんですね。

 

【上映】アデュー・フィリピーヌ

 

風景とダンスだけなのにとても美しいですね。これまでの「山」が人々を疎外する舞台として機能していたとするならば、ここでは全てを包み込み許容するかのような美しさがありますね。

 8本目はリュック・ムレ監督の『ビリー・ザ・キッドの冒険』の冒頭を観てみましょう。リュック・ムレ監督もロジェ監督と同じくヌーヴェル・ヴァーグにカテゴライズされる監督ですが、日本ではロジェ監督よりもっとマイナーですね。1956年にカイエ・デュ・シネマ誌に10代後半の若さでエドガー・G・ウルマー論で批評家デビューします。エドガー・G・ウルマーとはB級映画、低予算・早撮りの映画をたくさん撮った監督で、第五回の映画☆おにいさんで扱います。で、ムレがウルマーから何を学んだかというと、予算がないならアイディアとロケーションでっていうところなんですね。で、ムレは「山」をよく映画の舞台にします。斜面を活かした演出をして画面を充実させています。

 ムレもロジェもヌーヴェル・ヴァーグにカテゴライズされますが、作品は面白いくらいにちがって、ロジェの映画は自然な演技であった一方、ムレはブレヒトっぽいというか、わざとらしい、コミカルな演技です。申し訳ないことに字幕がないですが、サイレント映画的な演出がされているので、あまり気にならないとおもいます。俳優はトリュフォー大人は判ってくれない』に出ていたジャン=ピエール・レオーです。

 ムレの映画を見る前に、ムレが引用していると思われる『アパッチ砦』を観てみましょう。『駅馬車』で有名なジョン・フォード監督の西部劇です。馬に乗ったインディアンが坂を下るところも併せて観てみましょう。

 

【上映】

『アパッチ砦』

ビリー・ザ・キッドの冒険』(上映途中から英語吹替)

 

山を舞台にした映画をこれまで観てきましたが、それの集約的な映画とも言えますね。斜めの地形が矩形の画面に奥行きを与え、その中で人物をうまく動かすことで画面を充実させていますね。あと、いちいちくだらないギャグが入っていて面白いですね。吹き替えが雑なのもB級っぽくて良いですね。変に飾らなくても観客の想像力を信じているから、こういうことが出来るんですね。愛の詰まった映画ですね。

 最後に、堀禎一監督の『天竜区奥領家大沢集落 別所製茶工場』を観てみましょう。いまは浜松市である旧水窪町の市街地から、さらに車で30分程白倉川沿いに上がったところに「大沢」という集落があります。そこで暮らす人々がお茶を作っている様子を撮ったドキュメンタリーです。本日、飲んでいただいたお茶も大沢で採られたお茶なんですよ。

 

【上映】

天竜区奥領家大沢集落 別所製茶工場』

 

ものすごい斜面ですよね。ここで畑やお茶を作り生活するのは容易なことではないと思いますが、ご覧の通り風景がとても綺麗なところです。大沢には「ほつむら」という民宿がありますから、映画を観て興味を持った方はぜひ遊びに行ったり、泊まりに行ってください。今日のお茶も「ほつむら」で買うことができます。

 

これまで「山」が舞台の映画を観てきましたが、山がさまざまな舞台になりうることをみてきました。これから映画を観ていて、もし「山」が出てきたら注目して観てみてください。本日はどうもありがとうございました。

 

※本文は2014年9月28日にカフェうーるーで行ったシネマ・カフェに加筆訂正した。特に『セザンヌ』においては自宅にDVDを忘れてしまったため、上映していない。