GO!GO!L'ATALANTE!!

ゴー!ゴー!アタラント号!! 映画☆おにいさんのBlog

コロンブス 永遠の海

コロンブスのサイン、石碑、航海の様子を描いた絵が映される。ナレーションは、コロンブス役のジョゼ・ルイス・トーレス、続いてリカルド・トレパによって語られる。

 移住。1950年。
 鳥が羽ばたく音、鳥の鳴き声が聞こえてくる。低い位置に構えられた手持ちカメラが、二人の男が歩く姿を後退しながら正面から捉える。二人の視線は揃って画面右上に投げかけられている。雲一つない青い青い空にはたくさんの鳥が飛んでいる。ジョゼ一世の騎馬像に多くの鳥がとまっている。ポルトガル国旗のような赤色と緑色のコスチュームを纏った女性(クレジットでは「天使」とされている)が壁の影から現れる。女性の後ろには、現代の服装の通行人や工事をしている人がいる。カメラは騎馬のアップとなる。鳥が頻りにとまっては飛びたっている。続いて騎馬の目線であるかのような俯瞰ショットとなる。歩く二人の男がフレームアウトする。彼らマノエルとエルミニオの兄弟は、アメリカへの船に乗るためにリスボンを訪れ、そのついでに遺跡を巡っているようだ。彼らは遺跡を見上げるのに最適な場所があるかのように、逐一トランクを置き、見上げ、再びトランクを持って歩きだす。彼らは画面外に視線を投げかけては、次のカットで映し出される遺跡について話している。しかしながら、彼らの背景はほとんど突き抜けた青い空か地面のどちらかでしかなく、彼らがどこに居るのか精確にはわからない。そして、彼らが語る遺跡やリスボンは一部分が映し出されるのみであって、街の全景を捉えた映像があるものの、それは記録フィルムの映像である。
 マノエルがエルミニオに「母親は?」と尋ねると、画面はそわそわと小刻みに身体を揺らす女性がアップで映し出される。彼女は兄弟の母親であるらしく、先にアメリカへと発つ息子たちを見送りにきたようだ。汽笛が響く。別れの抱擁を終え、船へ乗るために兄弟がフレームアウトすると、母親はバッグから白いハンカチを取り出す。兄弟は船に乗り込む階段の途中で振り返り、母親へ手を振る。母親も手を振り返す。兄弟は再び階段を登っていく。母親はハンカチで涙を拭い、息子たちからゆっくり右へ視線を切る。いったん息子たちに視線を戻すも、再び視線を右へ向け歩き出す。表情から感情を読み取ることは難しいが、彼らの仕種ははっきりと見てとれる。ここでの切り返しの画面は、ともに背景が画面左手前から右奥へ斜めに伸びる壁と船であり、イマジナリーラインが無視されているつなぎまちがいである。天使が船に乗っている。次のカットでは天使の視点であるかのようなロングショットが母親がフレームアウトするまでの時間を捉える。天使は腰に差していた剣を取り出し両手で握りしめる。画面は曇天の海となり音楽が流れる。

 船の一室で、マノエルは父親の心中を察しながらも父親の半ば強引な招集への不満を大げさに手振りを交えて話す。エルミニオは相槌を打ちながら、ランプの台を指でなぞっている。兄が急に画面外に向かって話しかける。同じ船に乗り合わせた、父親と同年代であろう初老の男が答える。画面には終ぞ登場しない父親の代理のようなこの男は、兄弟たちの質問を始終はぐらかす。脇に座る若者たちは、自動人形のように首を振って二人の会話を追うが、次第に初老の男を凝視する。会話が終わりこの一室を引いて捉えた画面となり、船が揺れるたびに丸窓から差しこむ光が、初老の男の顔の輪郭を浮かび上がらせる。マノエルはそれに気付き、一瞥する。
 夜半に到着したというニューヨークは、ポルトガルの青い空とは対照的に、濃い霧に包まれている。画面はチープな特殊効果によって白く霧がかっており、自由の女神はよく見えない。兄弟はボートに乗り、波止場へ向かう。星条旗の下を通り、入国審査の建物へ入っていく。あきらかにセットである簡素な造りの建物には壁に大きな星条旗がかけられている。兄弟は審査官に二種類のパスポートを渡し、判子をもらう。マノエルは英語に慣れていないのか発音がたどたどしい。建物から出た兄弟は愚痴をこぼしながらタクシーを待つ。つかまえたタクシーに荷物を載せて乗り込む。発車したあと、幾人かの通行人が通り過ぎ、続いて建物から出てきた男が道を横切る。
 タクシーの後部座席に座っている兄弟は、赤色と緑色のライトに交互に照らされながら、画面左外を揃って見つめている。カメラは窓の外の風景を映すが、窓ガラスが白く汚れている。運転手が行き先を確認する。マノエルが答えると、次の瞬間には目的地に着いている。荷物を下ろしたタクシーがエンジンをかける。兄弟はホテルへの階段を登る。車が発車する音が響く。従業員がホテルの部屋の灯りを点ける。従業員が彼らの横に立ち、兄弟は二人とも立ち竦む様子をカメラは正面から捉える。
 再び、兄弟はタクシーの後部座席に座っている。外は相変わらず曇っている。出発してから大分経っているようだが、兄が運転手へ行き先を告げる。ブルックリン橋へさしかかり、窓の外へカメラが向けられる。このタクシーも窓ガラスが汚れている。外は曇りである。けっきょく、タクシーからカメラが出ることはなく、ブルックリン橋の全景は分からない。目的地のレストランでは、同姓のよしみでオーナーから職を紹介してもらう。大きな窓にはブラインドがされている。地名をメモしようとするが、うまく聴き取れずメモをすることができない。オーナーがもう一度はっきりと発音する。「マン、ハッ、タン」

 マサチューセッツの医師。1957年。
 鳥の鳴き声とともに、青空の下、聖ルーク病院が映し出される。マヌエルはポルトガルで学位取得後アメリカで医師として働いており、この病院で講演をしているところである。アメリカでの生活は長いのか、流暢に英語を話している。演台の横には星条旗がたてられており、黒板にはカリブ海の船路が描かれている。壇上で質問に答えるマヌエルは正面から、最前列の一組の男女が斜めから、そして聴衆全員が正面から映される。マノエルは講演を終えて退席する。聴衆は続々と席をたつが、一組の男女は座ったままマヌエルの愛人だという岩について話す。コロスのようにマノエルの私生活について語るこの二人の会話は、この映画では唯一、制度的な”切り返し”によって撮られている。会話の途中からカメラは黒板と演台を映す。会話を終えた二人が退室し扉が閉まる様子が音でのみ伝えられる。

 ポルト大聖堂。1960年
 鐘の音が鳴る。ポルトの街並が映される。カモメが鳴きながら飛んでいる。カメラは聖堂の入り口付近から祭壇を捉える。ポルト大聖堂に神父の声が響く。マノエル・ルシアーノとシルヴィア・ジョルジュの結婚式が行われている。誓いの言葉を読み上げる神父のアップとなる。続いて、祭壇の陰から天使が現れ、すぐさま闇に消える。神父の言葉に耳を傾ける新郎新婦が正面から映される。奥にはバラ窓がみえる。誓いの言葉は続くが、画面はホテルから出てくる二人へと移行する。ホテルのボーイが車に荷物を積み、ドアを開ける。マノエルとシルヴィアは車に乗り込み、ほどなく発車する。車は橋を越え、野を越え、カメラが車の動きを追ってパンしたかと思うと、あっという間にポルトガル南部を走っている。誓いの言葉が終わり、パイプオルガンが鳴り止む。「アーメン」の言葉にあわせてカメラは車内へと移動する。車を運転するマノエルと助手席のシルヴィアを真後ろから捉える。フロントガラスからみえる道路は地平線までまっすぐ続いており、彼ら以外の車は見えない。
 白い家々の街並に、犬の鳴き声。画面手前に歩いて来る女性が遠くに見える。同じように画面奥から来た車が女性の傍で停車し、彼女を呼び止める。近寄った彼女にマノエルら三人のアップとなる。マノエルとシルヴィアが女性にいくつか尋ねるも、女性は首をひねるばかりで芳しい答えは得られない。二人は御礼を言って車を発進させる。カットが変わり、車が道ばたに停まる。シルヴィアはスカーフを着ける。マノエルが先に降りて助手席に回り込んでドアを開ける。二人は並んで歩いていく。
 カメラは教会に入って来る二人を祭壇から捉える。教会の長椅子には二人の女性が座っている。神父が立ち上がり、挨拶をする。祭壇は戦争のため破壊されている箇所がある。シルヴィアも神父に質問するも、コロンブスについての有益な情報は得られない。二人は車へ戻る。シルヴィアはスカーフをとる。音楽が流れ始める。マノエルが助手席のドアを開ける。画面はカテドラルの外観が映し出す。ドアを閉め車が発進する音が聞こえる。
 画面奥へと続く一本道を車は走っていく。音楽に紛れて鳥の鳴き声も聞こえる。車が見えなくなる。
 カメラは再び車内へと移動する。ハネムーンに出発したばかりの二人が、文化的な面ももちろんあるだろうが、運転しながら過度に見つめ合い話す様子を真後ろから捉えていた場面とは異なり、今回はフロントガラス越しに正面から捉える。学生時代や父の出生地について話されるこの会話場面が、前回のそれとは異なるのは、カメラ位置もそうだが、二人が話す話題と話題の合間に一瞬の沈黙が挿入されている点である。仮に前回が運転しながらも互いに見つめ合うシルエットが撮りたかったとするならば、今回の会話場面は、ふと会話が途切れ前方の景色を見遣る二人の、何を考えているのやら宙に吊られた表情を、そして何か思いつく瞬間の表情を撮りたかったかのようだ。
 ベージャ城に寄り道し、車を停める。車を停めた場所から斜め後ろにお城がある。だが、彼らは視線を城に向けることなく、車を再び走らせる。城壁に鳥が二羽飛んでおり、鳴き声が聞こえる。
 車が画面奥より来て、道ばたに停まる。シルヴィアは車から降りて、植栽の前で足を止める。画面はドナ・セオノール像となる。しばらくすると足音が聞こえ、画面左からマノエルとシルヴィアが現れ横切っていく。そのため、このカットはシルヴィアの主観ショットではない。二人は博物館に入っていく。展示品の中を歩く二人。キリストの壁画が正面から映し出される。続いて、夫婦が首を反らせて天井を見上げる画面となる。今度はあたかも主観ショットのように撮られている。奥から、館長が現れる。二人は顔を戻し、自己紹介をする。そして、ベージャ公の墓が映る。カメラはそのまま動かず、複数の足音が聞こえ三人が会話をしながらフレーム・インしてくる。
 塔では、透きとおった青空の下、風にたなびくポルトガル国旗が、傍に天使が立っている。吹き荒ぶ風にはためく旗の寄り、見上げる天使の寄り、再び旗の寄りと画面は推移する。塔を捉えた引きのカットに戻る。天使は柵に近寄り、下を覗きこむ。風で天使の髪が舞い上がる。画面は俯瞰の映像となり、マノエルら三人が扉から入ってくる。城壁内を捉えた画面に三人がフレーム・インし、見上げる。奥には天使が立っている。三たびポルトガル国旗となる。見上げていた三人は塔に向かう。先ほど立っていた天使は居なくなっている。
 階段を上り、塔へと到着する。塔へと至る階段でマノエルはシルヴィアの手を取ってやる。塔で三人は辺りを見渡す。イスラム教の影響を受けている城壁内の風景が映し出される。マノエルら三人、遠くを見遣る天使の寄りが続く。
 音楽が流れ、ベージャへ向かうときとは別の一本道が映し出される。今度は車が画面奥から手前へと走ってくる。
 海原へと突き出すサグレス岬がみえる。サグレス砦へと車が入っていく。道が荒れているため、車体に据えられたカメラも揺れている。砦内に車が入ってくる。紋章のアップのあいだ、車から降りる音がする。車から降りたシルヴィアがコートを羽織り、スカーフを着ける。周辺に視線をやるマノエルは由緒ある航海学校なのに荒れていると憤る。風が強いためシルヴィアの前髪が乱れる。マノエルが羅針図を見渡す首の動きにあわせて、パンしながら羅針図を映すカットへ切り変わる。二人は航海学校へと歩き出しフレーム・アウトする。航海学校へと歩く二人の小さな後ろ姿と、建物から二人を迎える女性が見える。
 学校の敷地へ入ったシルヴィアと女性がスカーフを外し、マノエルを待つ。扉を閉める音がし、マノエルが二人に追いつく。三人は幾何学的な柱が続く廊下を画面奥へと歩いていく。マノエルは画面外へ視線を向け、荒れている航海学校をなぜ復元しないのか女性に尋ねる。三人は建物内の部屋から、天使の横を通り、さらに奥へと進む。天使は窓の方へ歩をすすめる。ピアノの曲が流れ始める。青空の下、海沿いの長い道を歩く二人の姿が見える。外を眺める天使が窓越しに映し出される。シルヴィアが詩を朗読し、マノエルが復唱する。遠くを見つめる天使は微笑んでいるようにも見える。青い青い海。

2007年。47年後のニューヨークにて。
 これまでのように黒字に白文字が印字された画面での場面転換ではなく、海原を背景に「2007 quarenta e sete anos depois Manuel Luciano e Silvia Jorge em Nova lorque」の文字が浮かぶ。
 朝焼けのニューヨーク。サイレンが鳴っている。青空にタイムワーナーセンター、コロンブス像。鳥が一羽横切る。コロンブスの航海する様子が描かれたレリーフオリヴェイラ監督夫妻が演じている、結婚してから47年後のマノエルとシルヴィア。彼らはコロンバスサークルの噴水の前にいる。夫婦はうんと首を反らして見上げている。ワシの像の寄りの後、誰の目線とも分からぬニューヨークのビル群へと画面は移行する。急なあおりの画面となり、タイムワーナーセンター、トランプ・インターナショナル・ホテル・アンド・タワーとともに、コロンブス像が晴天へとのびる画面に夫婦がフレーム・インする。ほぼ目線の高さにカメラは戻り、正面から夫婦をとらえる。二人とも画面外上方を眺めている。コロンブス像において鳥(ワシ)の像と表裏一体である発見の天使像がアップで写される。夫婦はそれをじっとみつめる。
 船尾で風にはためく星条旗。画面奥には自由の女神が見える。船が揺れているので、固定されながらも画面は上下に揺れている。船尾のデッキでマノエル夫妻が並んで遠方を見遣る様子を正面からとらえる。風が強く、シルヴィアが頭に着けているスカーフが風に揺れる。シルヴィアがおもむろに詩を朗読し始める。カメラは夫妻の反対側に移る。夫婦越しに、カメラは画面中央に自由の女神を据える。星条旗が掲げられた竿が、船の揺れが伝わる画面をおおよそ半分に分割する。船の揺れのため、自由の女神に竿が被ったり被らなかったりする。共に背面しか見えず微動だにしないでなされているマノエルとシルヴィアの会話が丁度終わったところで風が止み、星条旗自由の女神に被る。
 カメラは船内へ移り、ソファを正面から写す。マノエルとシルヴィアが画面右前からフレーム・インしてソファへ腰掛ける。そこへ画面奥から天使が現れ、二人が話す様子を見つめる。天使は、先ほどまで映っていた自由の女神と同じように、画面中央に位置している。長回しの会話の最中、画面は唐突に自由の女神を画面中央に引きで捉えたカットが挿入される。カメラは再び船内の同ポジションに戻り、「かたち」が重ねられる。シルヴィアの笑いにあわせて画面は切られ、バークレーのダイトン・ロック州立公園の看板が映し出される。
 ダイトン・ロック美術館の前に車が停まっている。美術館内で、マノエルが展示品をシルヴィアに説明している。彼らが話題にする展示物は分かるが、ここでも建物の全体を把握することはできない。例えば、記念碑の両端にある二つの扉の片側から入りもう一方から出てくるが、開いた扉をとおして見える空間はその間に描かれた空間と明らかに一致しない。そして、この美術館から帰るとき、完全予約制である美術館であるので誰かしらはいるのかもしれないが、扉を開けたまま二人は屋外へと出ていく。47年経っていても同じように、シルヴィアはスカーフを着け、マノエルはシルヴィアのために助手席のドアを開けてやり、車に乗り込む。開け放たれた扉の向こう側で、車は走り去る。
 夫婦は、トマールのキリスト教修道院にある円堂を模したと思われる塔を訪れている。カメラは正面からバストショットで二人を写す。マノエルが目にもとまらぬ速さでポケットから写真を取り出す。カメラは写真を覗き込む彼らの背面にまわる。マノエルもシルヴィアも帽子をかぶっている。画面は最初の引きの画に戻り、二人は塔と写真を見比べる。再び彼らの寄りの画面となる。この塔から海を見渡せるはずであるから行ってみようと、二人は画面右端へと歩み始めるもフレーム・アウトする前に画面は切り替わり、すでにフレーム・インしている二人が画面中央で歩みをとめる。現在はきちんと見えないが前はもっとよく見えていたはずだというマノエルが言った後、画面が切り替わり、電柱や木々によって視界が遮られてはいるものの、画面奥に海を確認することができる。しかしながら、二人を正面から捉えた前のカットと画の連続性が全くないので、180度の切り返しであるとも考えられるが、二人の視線と観客に与えられた画が一致しているかは定かではない。そして、カメラは二人を正面から再び捉えるのだが、二人はもっと間近で海を見ようと画面から姿を消す。画面右奥では星条旗が風に吹かれており、画面奥から車が何台かこちらにやってくる。
 陽が陰った海岸沿いを、先ほどと同じようにしかし異なる車が、画面奥から走ってきて道ばたに停車する。車から降りたマノエルが助手席のドアを開け、シルヴィアをエスコートする。道路を渡り海岸へと歩く二人をカメラはパンして追う。音楽がなり、その他には打ち寄せる波の音がわずかに聞こえるのみで、二人が何を話しているかは分からない。ある方角を指し示しながらシルヴィアに何かを説明しているマノエルが「かたち」であらわされる。
 海岸沿いから撮られた曇天の海から、同構図の快晴の海へとオーバーラップする。それは上空から撮られたものであり、空撮のため画面が揺れている。続いて上空から島の様子をうつし、カメラは滑走路へと移る。画面奥に「PORTO SANTO」の文字がみえる。飛行機が着陸して現れフォローミーカーに案内されて停まる直前までの、一度は画面外へと捌け再びフレーム・インしさえする一連の動きをカメラは収める。
 空港内で、マノエル、シルヴィアとガイドの三人がカートを押して来、画面中央で立ち止まる。ガイドと話し合いの中で、フライトの疲れが示唆されるが、兎にも角にもコロンブスの家へと向かうことにする。そこには、これまでと同じように、ためらい、しりごみ、とまどいなどまったく見受けられない。
 タクシーが路地の手前で停車する。タクシーから降りた三人は細い路地を通り、コロンブスの家の敷地へと入っていく。鳥の姿は見えないが、鳴き声は聞こえる。彼らが階段を上がると、画面奥にあるコロンブスの家へと続く階段に天使が立っている。彼らは天使の存在に気付かない。そこへポルト・サント美術館館長が驚くべき速さで階段を駆け上がり現れる。先ほどと同じ位置の画面だが、そこに天使はいない。天使はいかにもな動きもせずただ佇むのみである。画面が切り替わったときには、期待すべき時には、発見の天使はすでにいない。マノエルらが挨拶を済ませて、奥の階段を上り部屋へと入っていく。
 家の中の荷物は研究中のため運び出されている。壁には画と写真が幾枚か展示されている。部屋の中でやや離れて位置する5人が示されたのち、展示された画や写真を順を追って見ていく。彼らが移動する際には決まって部屋の中にいる天使が映される。そのため、次の写真へと話題が移って彼らが移動したり身体の向きを変えるとき、動作はその始めと終わりが映されるのみである。動作途中では画面は天使を映し、その動作や移動は音によって処理されている。そして館長がペソアの詩を朗読したあと、天使がカメラへの視線を切って窓辺から画面右へとフレーム・アウトする。カメラは部屋の外へと移り、窓越しに部屋の中の彼らを捉える。館長の意見にマノエルは若い頃からの口癖「そのとおり!」と答える。そして夫婦共々、窓へと歩きだす。二人は窓枠に手をかけ、シルヴィアがアフォンソ・ヴィエイラの詩を朗読する。老夫婦がただ画面手前へと歩いてくるだけのこのカットがこれほどダイナミックで感動的なのは、シルヴィアが朗読する詩の内容に郷愁を感じるからではなく、フレームの中にさらに窓枠というフレームによって限定された狭い構図内での運動であることに加えて、このシーンで初めて人物の動作が一部始終捉えられているためである。
 朗読途中からカメラは窓の外の風景を映し出す。棕櫚の陰から白い客船が姿を現す。朗読が終わり、一拍置いて、汽笛の音。姿を消した天使が祝福しているかのように、画面には映らない何羽もの鳥の声が響いている。客船がフレーム・アウトする。続いて、砂浜から海原を捉えたカットとなる。青い青い空と海。波が静かに押し寄せている。水平線に白い客船が見える。もはやどこの海岸なのか、先ほど見た客船と同じ場所なのかわからない。エンドクレジットが終わり、再びシルヴィアの朗読がなされる。朗読が終わり、客船がフレーム・アウトする。波と風の音が徐々に遠のいていき、映画は終わる。